初めて歌舞伎を見る。歌舞伎座、夜の部。ほぼ満員の入り。最初の演目は坂東玉三郎主演「壇浦兜軍記・阿古屋」。これが素晴らしかった。鎌倉時代初期、秩父庄司重忠(中村吉右衛門)が、頼朝暗殺未遂容疑者、平景清の行方を探すため、景清の恋人である遊女、阿古屋(玉三郎)を引き立てる。重忠の部下?岩永左衛門(市川段四郎)が拷問にかけて吐かせてみせると迫るが、阿古屋は居場所は知らない、いっそ殺せと身を投げ出す。重忠は阿古屋に琴・三味線・胡弓を弾かせる。嘘をついていれば音色に乱れが出るはずというわけだ。そして阿古屋がすべて弾き終わったとき、重忠は阿古屋を無罪放免にする。玉三郎の演技と演奏は芸術以外のなにものでもない。段四郎人形浄瑠璃を模した演技もすごかった。
次の演目は市川團十郎主演「身替わり座禅」。お殿様・右京(團十郎)は遊女花子と会いたいが、嫉妬深い奥方・玉の井市川左團次)が家から出してくれない。そこで一計を案じ、奥方には「一晩お堂にこもって座禅する」と言って安心させ、家来・太郎冠者に座禅の身代わりを命じて自分は出かけてしまう。花子の元から帰宅した團十郎が酒に酔っていい気分で、いかに花子がいい女で楽しい時間を過ごしたか、そしていかに奥方がひどい女か語る場面が楽しい。結末は、奥方にばれて大騒ぎというたわいのなさ。
最後の演目は中村吉右衛門主演「二條城の清正」。秀吉の死後、加藤清正吉右衛門)は忠義深く秀吉の長男秀頼(中村福助)に仕えている。豊臣家取り潰しをもくろむ家康(市川左團次)が、秀頼を二條城に招待してきたとき、秀頼は上洛を決意する。清正は病身を押して二條城へと向かう。大勢の部下を従えて家康が待ち構える二条城で、清正は慎重深く堂々たる弁舌で秀頼を守り抜く。大阪城への帰途の船上、秀頼は清正の忠誠心に感謝し、清正は感激して号泣する。今日の演目の中では一番新しい芝居で、何か歌舞伎らしくない。現代演劇に近くだけに、返って展開の遅さやセリフのくどさが鼻について、退屈してしまった。歌舞伎はやっぱり鎌倉時代までを舞台にした古典もののほうが、抽象度が高くなって芸術の域に近づくような気がする。
歌舞伎座を出て、クロ・ド・ミヤンというワインバーで軽く食べて飲む(中央区銀座7−3−13ニューギンザビル2F、03-5568-4777)。