談志師匠のDVD

深夜のNHKBSハイビジョンで立川談志の落語(「薬缶」「芝浜」)を見た。最近、新宿末広亭に行ったりDVDで桂枝雀「寝床」を見たり、ちょっと落語ミニブームなのだが、談志師匠の「芝浜」はそんなもんじゃない、別次元の体験だった。圧倒された。落語とはこんなにも人の心を動かすものであったのか。
酒に溺れて仕事をしようとしない魚屋の男に女房が「お願いだから商いに行っておくれ」と頼むシーンから始まる。しぶしぶ市場に出かけた男は芝の浜で大金の入った財布を拾い、「海から来たものは漁師のもんだ。漁師のものを魚屋の俺がもらってもいいじゃねえか」と考えて自分のものにしてしまう。意気揚々と家に帰り、拾った金で仲間を呼んで大酒を飲む。目が覚めると女房が財布のことをまったく知らないという。どうやら大金を拾ったのは夢であったらしい。大酒を飲んでいよいよ金も尽きてしまった。夢と知って途方に暮れた男に女房は「3年まじめに働いておくれ。あたしが何とかするから」と言う。
男は人が変わったように酒を断ってまじめに働き、徐々に生活が安定し、住まいも裏長屋から表に変わった。3年後の大晦日、女房が涙ながらに感謝の言葉を繰り返し、そして告白する。大金を拾ったのは本当だった。しかし女房がそのとき大家に相談し、金は届け、男には夢と思い込ませたのだ。その後その大金は、落とし主が見つからず戻ってきたと言う。泣きながら詫び続ける女房に、男は怒るどころか感謝すると言い、大家にお礼を言いに行こうと言う。女房は感激し、ずっと断っている酒を今日は2人で飲もうと言う。男はさんざん迷った挙句、「よそう。また夢になるといけねえ」。
僕が知らなかっただけで、実は「芝浜」は落語ファンなら誰もが知る年末恒例の大ネタで、志ん朝小三治の芝浜も絶品なのだそうだ(CDで聴けるらしい)。「芝浜革財布」という名で歌舞伎にもなっていて、何回も映画化されているという。いかに自分が日本文化オンチかということで、たいへん反省している。