「猿後家」も面白かった

立川談志「芝浜」で落語を発見して以来、テレビ番組を探したりCDを買ったりして少しずつ鑑賞しているが、またすごい作品に出会った。奇しくも談志の弟子、志の輔演じる「新版・蜆売り」。
寒い日、蜆(シジミ)売りの子供が料理屋の店先で追い払われようとしている。そこに来た客が蜆を全部買いあげた上、部屋に呼んで食事をさせて身の上話を聞こうとする。「面白い話じゃありませんから」としぶる子供が、客に促されてようやく打ち明けた話は意外なものだった。(途中をはしょるとこの噺のよさが消えてしまうが、思い切りはしょってしまう)蜆売りの子供の姉と駆け落ちした「若旦那」が、この客(実は鼠小僧次郎吉)の身代わりとして獄中にいる。受けた恩を仇で返すわけにいかないと考えて、取調べにも決して口を割らないという話を聞いて、次郎吉は自首すると決める。一緒にいた次郎吉の子分が自分が身代わりになると言うが、次郎吉は「俺は自分のために行く。こんな話を聞いたんじゃゆっくり眠れるわけがない。だから俺は自分がゆっくり眠るために行くんだ」と言う。次郎吉が子供に「いいことがあるかもしれないぞ。もう蜆を売らなくてもよくなるかもしれないぞ」。子供が「おじさんに悪いな」。何で悪いと思う?と聞かれて子供は「代わりに蜆を売ってくれるんだろう?」。
どうやらこの噺、もとは義賊鼠小僧次郎吉人情噺の連続講談で、次郎吉が自首しないで身代わりを立てる筋だったらしい。これを志の輔ががらりと変えて新版としたもの。おかげで何とも深い味わいのある人情噺になった。
志の輔はマクラから最後まで、オリジナルなアイディアも噺のテクニックも最高で、まさに「平成の名人」だと思う。